ITジャーナリストの津田大介さんの講演を聞いてきました。中部グラフィックコミュニケーションズ工業組合の「第3回クロスメディアカンファレンス」での講演でした。テーマは「ソーシャルメディアは何を変えたのか?」です。
津田さん言えば「tudaる」という言葉を産んだ人(^^)で、 「ITpro EXPO 2013」で、ももクロにITについての講義を行ったことでも有名(一部で)!
最近は、ネットやソーシャルメディア が政治や社会に対して与える影響に関心を持たれているようで「動員の革命ーソーシャルメディアは何を変えたのか」という本も書いておられます。この本は以前に読んでいたんですが、うまくいえないんですが何かしっくりこない部分がありました。ですが今回のお話を聞いて、そういう部分がなくなったような気がします。これは津田さんの出版後の認識の発展によるものなのか、日本でSEALDsの動きを目の当たりにしたことによる、私の受け止めが変わったのかどうかは定かではありませんが…。
以下、自分が面白かったと思ってメモしたところをまとめます(講演全体のまとめにはなっていませんので、あしからず)。
目次
ソーシャルメディアのキーワード
津田さんがSNSのキーワードとしてあげられていたのは以下の5つ。
- リアルタイム性(速報性、伝播力)
- 共感・協調(感情や思考の共有)
- リンク(具体的行動の促進)
- オープン(参加や離脱が容易)
- プロセス(透明性・興味喚起)
特になるほどと私が思ったのは、2の「共感・協調(感情や思考の共有)」です。
ソーシャルメディア は、概ね自分の知っている人からの情報を受けるため、感情を動かす作用が強く、新聞やTVなどの「報道」は感情を排しており、自分の知らない誰かがまとめた情報なので感情を揺さぶりにくいという特徴があるということでした。
ソーシャルメディアは現実世界では、まず繋がることがない人々をつながり、たとえそれが極端な感情や思考であっても、それを共有することで具体的な行動につながりやすいという指摘でした。SEALDsなんかを見ていると、まさしくそのとおりだと思うし、逆に差別的なヘイトスピーチやデモもソーシャルメディアがなければ、具体的な行動として出現することもなかったかもしれません。
ソーシャルメディアの影響力
TVの視聴率は正確なのかどうかという議論はありますが、とりあえず1%で100万人が見ている計算になるそうです。
ブログで購読者数が一番多いのは、日本のタレントの上地雄輔さんで230万人、ギネス記録だそうです。
230万人といってもTVの視聴率に換算したら2.3%にしかなりません。深夜番組の数字ですね。今の朝ドラの10分の1程度、そんな影響力しかないそうです。
しかしソーシャルメディアはちょっと違います。仮に自身のフォロワーが少なくても、フォロワーがリツイートしたりシェアすることで、どんどん拡散していきます。場合によっては数千万人規模に到達することも、しかも無料で。
また多数のフォロワーを持つユーザに対してメンションやメッセージを送って、それが取り上げられたら、一気に多数の人に伝わりリツイートやシェアが繰り返され、さらに広がります。従来のメディアやネットメディアの一つでもあるブログとも違った伝播力を持ち拡散する特徴を持っているようです。
ネットで話題になるポイント
- 共感
- リアルタム性
- 新規性
この3つは恋愛における3つのingとも似ているそうで…
- Feeling(フィーリング)→共感
- Timing(タイミング)→リアルタイム性
- Happning(ハプニング)→新規性
に、相当するみたいです。
売れている商品の共通点=TDLの法則というのも紹介されました。
端的な例はiPhoneで、テクノロジーの固まりで、デザインもよく、ライフスタイルを変えました。物理的製品でないものでいうと、LINEがよい例かもしれません。
スタンプなど新しい文化を定着させ、ライフスタイルにも大きい影響を与えました。SEALDsの中心メンバーもLINEで連絡を取り合っているようです(私なんかはオジサンなんでLINEじゃなくfacabookのMessengerが多いですけど)。
- Technology(テクノロジー)
- Desgin(デザイン)
- LifeStyle(ライフスタイル)
コミュニケーション手段としてのソーシャルメディア
これは私も実感するところですが、かつてインターネットは「検索」に代表される、膨大な情報データベースを利用する場でした。しかし今では主にはソーシャルメディアによって、コミュニケーション手段になってきているという指摘がありました。
これは、講演の話ではないですが私の知り合いの大学教授が学生に「インターネットとはデータベースかコミュニケーションツールか」と問うたところ、大半の学生がコミュニケーションツールだと答えたそうです。
確かに電話回線でモデムを使って通信時間を気にしていたころは、気軽に連絡を取り合うことは難しかったですが、スマホの登場とネットへの常時接続が当たり前の昨今では、コミュニケーションツールとして大きく進化を遂げたということでしょう。
情報のあり方としても、データベースというストック型の情報の蓄積の上に、フロー型の情報が重なってネットを構成しているという感じでしょうか。
「輿論(よろん)」と「世論(せろん)」
「世論」という言葉は、「よろん」とも読めるし「せろん」とも読めます。
しかし実はこの「よろん」と「せろん」は別々の漢字が割り当てられており意味も異なるんだそうです。
佐藤卓己さんという京都大学の教授が「輿論と世論-日本的民意の系譜学」という著書で明らかにされているそうです。
「輿」という文字は「与」の旧字体だそうで、これが常用漢字にないのでどうするかというときに、似たような意味で読みも同じ「世」という漢字を当ててしまい、それが「よろん」と「せろん」が混同される原因を作ったんだそうです。せめて「与論」にしといてくれれば、よかったのに…。
それぞれの意味としては…
「世論(せろん)」
情緒的参加による共感にもとづく、好き嫌いをめぐる私的感情。
「輿論(よろん)」
理性的討議による合意にもとづく、良し悪しをめぐる公的関心。
「世論(せろん) 」の上に「輿論(よろん) 」が成り立ち、最終的な「政治的意思決定」に繋がるという説明でした。
津田さんがスライドで示した図を簡略的に書くとこんな感じ。
ソーシャルメディアは感情のメディアであり、喜怒哀楽を増幅させる作用を持ちます。理屈よりも感情が優先されてしまいます。なので東京オリンピックのエンブレム騒ぎの時のように、義憤にもとづく社会的制裁を超えた私刑(リンチ)、公開処刑のような事態にも発展しやすいということでした。
私見ではありますが、「輿論(よろん) 」がないか極めて薄っぺらい状態で「世論(せろん) 」の上に直接「政治的意思決定」があったとすると、とても危険です。
今の安倍内閣は、中国脅威論などを煽りながら、こうした「世論(せろん) 」を盛り上げ、それを上手に政治的に利用しているように見えます。
やはり「世論(せろん) 」の上に厚みのある「輿論(よろん)」が形成されないと、まともな政治も実現しないように思います。
当日、会場で手を挙げて質問すればよかったんですが(その時はそういう疑問が湧いてなかったのですが)、「輿論(よろん)」を形成していく上で、感情のメディアであるソーシャルメディアの役割は何なんだろうということが疑問に残りました。「輿論(よろん)」形成の上でソーシャルメディアは力になるのか?ソーシャルメディア以外の部分で頑張らないといけないのか…。津田さんがどうお考えなのかを知りたかったように思います。
もしかしたら、それは津田さん自身も明確な答えはお持ちでない可能性もあると思います。
今の「世論(せろん)」に乗っかった政治や社会の状況というのは決して良いものではないと思っているので、どうしたら厚みのある「輿論(よろん)」ができるのかを真剣に考えないといけないなぁという想いを強くしています。
メディア・ リテラシーと情報源
津田さんはメディア・リテラシーについて「メディアがつくる現実を批判的に見ることができ、それを踏まえてメディア上で表現できる力」というような主旨で(汗)説明されていたと思います(メモが間に合わなかった)。
それはメディアの作る現実を検証なしに受け入れ、それによって生じる感情がソーシャルメディアで増幅され暴走していくことを防ぐ上でメディア・ リテラシーは不可欠な力だと思います。
メディア・ リテラシーを身につけることなしに、「輿論(よろん)」を作ることはできないでしょう。
最後に会場からの質問に応える形で情報源として必要なものとして
- ネット…30%
- 紙(書籍・新聞)…30%
- 人(会話)…40%
パーセンテージは津田さんの中での比率だそうですが、これは人によって違うし違ってもいいけど、ネットの情報だけで判断したり考えたりしないようにすることの必要性を説いておられました。
もうちょっと本を読まないといけないなと個人的には反省をした次第です。ただ老眼が進み、電子書籍でないと読みづらくなってきているのが辛いところですが…
いずれにせよ、一度お話を聞いてたいと思っていた津田さんの話を、聞いてみたいと思うテーマで聞けて本当によかったです。
中部グラフィックコミュニケーションズ工業組合の皆さん、ありがとうございました。第四回も期待してます。